2014年9月2日(火)午後6時からルポール麹町2階ルビーの間で文楽を裏方として支えてきた床山の高橋晃子氏とかしらの村尾愉氏の二人による講演が行われました。
そこには、世界に類の無い技が沢山ありました。

講演前にウェルカム・レセプション。軽い食事を取る皆様。初めてご参加の方、お一人でご参加の方、そして仲間で常連の方々など、主催者側から紹介を申し上げ、和やかに親睦を深めていました。

人形は舞台のたびに化粧を直し、鬘(かずら)や衣装をつけて、様々な役柄に変身します。人形は国立文楽劇場が所有しており、かしらはおよそ40種類、320点余りある。公演ごとにかしらの配役を決める「かしら割り」があり、使用するかしらを選びます。前の公演でついた汚れを落とし、鬘を取り外し、固定されていた針穴を埋め、頷きや顔の表情を変えます。
仕掛けの調整、補修をした後、胡粉(貝殻を粉末にして膠(にかわ)で練った塗料で役に応じた色に塗りなおします。 最後に眉や目元を描く「キオイ」と呼ばれる化粧を施します。
からくりには、ばねのようにしなやかで反発性のある素材が必要です。人形の場合、鯨のひげが使われています。 かしらに取り付けられた黒い部品は、金属ではなく、鯨のひげです。ひげといっても、村尾氏の身長よりも遥かに長いものです。現在、村尾氏が大事に使用している鯨のひげは1961年のものです。
最後に、かしらは修理や修復作業ばかりではなく、新作のかしらにも挑んでいることを村尾氏は語ってくれました。作業中のかしらと、からくりによる表情・人格の変貌に会場はわき立ちました。

後半は、村尾氏の話の間から壇上でずっと人形の鬘を制作していた高橋晃子氏が、床山について話しをしてくれました。
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役者の髪を結う職人を床山と言います。高橋氏は、男性社会の文楽界で、初の女性メンバーです。大阪の国立文楽劇場での職場は、男所帯で道具、材料、人形も山積み状態。その作業場を整理整頓し、作業しやすくすることから修行が始まったそうです。

演出効果を高めるために劇中で髪が乱れてザンバラになる髪形もあります。高橋氏は、美しい髪が捌けるように仕掛けを施して目の前で結い上げてくれました。そして、有志の参加者に髪留めを抜いてもらいました。
美しい髪がばらりと解け、娘の姿は乱れ、・・・「あああ!」という喚声も上がってつかの間、かしらの表情が鬼へと変身し、その迫力に参加者は圧倒されました。
めったに伺うことのできない、かしらと床山の話。あっという間に時間が過ぎて大盛会の内に終了しました。
会終了後、多くの参加者は壇上に並べてあったかしらに殺到し、冷め止まぬ興奮を共有していました。
今後、文楽の舞台を鑑賞する上で、かしらと床山のこころと創意工夫を想像しながら、文楽に親しみを覚え、更にその芸術の奥深さを楽しんでいただけますことを願っています。